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日本に巣食う「学歴病」の正体

学歴の高さとハングリー精神が反比例する謎

吉田典史 [ジャーナリスト]
2016年8月2日印刷向け表示
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中小企業・自営業の経営者の学歴に、高卒、無名大学・難易度の低い大学の出身者が多い理由とは

今回は、中小企業や自営業などの経営者らの学歴に詳しいコンサルタント・栢野(かやの)克己さん(57)を取材した際のやりとりを紹介したい。主に2つの点を中心に尋ねた。1つは中小企業や自営業などの経営者らの世界にも「学歴病」は浸透しているのか、もう1つは大企業に勤務する会社員はなぜ学歴に強い影響を受けているのか、ということだ。

予めお断わりしておくが、記事の最後で紹介したエピソードについては、今もその事実関係は不明であり、栢野さんもまた把握できていない。しかし、学歴を考える上で何らかの参考になるかもしれないと思い、あえて記事の中に盛り込んでみた。

栢野さんは、大ベストセラー『小さな会社☆儲けのルール―ランチェスター経営7つの成功戦略』の著者でもある。福岡を拠点に全国で、主に個人事業主や中小・零細企業の経営者を対象にした講演や勉強会を続けていることで知られる。


自営業・中小企業経営者の最終学歴は
高卒、無名大学、難治度の低い大学

筆者 以前、自営業や中小企業の経営者の最終学歴を調べたことがあるようですね。

栢野 私はこの十数年、福岡や全国で自営業や中小零細企業向けに講演や勉強会を約2000回してきました。

多くの社長と接しながら学歴を調べたのです。彼らから経営の相談を受けたり、講演やセミナーに招いていただいたり、本や記事を書くために話をうかがったりしたときなどに、ヒアリングをしてきました。

最終学歴で最も多いのは、高卒です。その次に、いわゆる無名大学。その後に難易度の低い大学と続きます。難易度が高い大学は少数派ですね。大企業サラリーマンは高学歴が多いですが、中小零細の独立起業では逆なのです。

私の地元・福岡市では、旧帝大の1つである九州大学(以降、九大と表記)の難易度が圧倒的に高い。九大を卒業すると、多くは大企業や公務員になります。そこで活躍し、ある程度までは出世(昇格)もするから、辞める人は少ない。ましてや、独立して自営で開業したり、会社の起業をしたりするなんて、めったに聞きません。

筆者 ここ十数年は、一定の入学難易度以上の大学を卒業した人が、会社を創業することが増えているように思います。

栢野 IT系ベンチャー企業ではその傾向がありますが、創業・起業の中で大きな流れにはなっていないと思います。

私の地元でも、ごく一部に例外はあります。九大を卒業し、一時期小さな会社で経験を積み、その後独立し、会社を興した女性がいます。ぐんぐんと業績を拡大させ、地元では知られた人です。私が見てきた中で言えば、「九大卒」でも創業の叩き上げで成功した人は本当に少ない。

栢野 一方で、サラリーマンで成功しやすい九大卒でもうまくいっていない人もいます。私が大企業、中堅企業の転職に失敗して小さな会社に勤務していたとき、九大卒の男性社員がいました。聞いてもいないのに「ボク・九大」とひけらかすので、イジメられていました。その会社は、社員の大半が高卒や難易度の低い大学の出身のようで、上司もヤンキー上がりの高卒でしたから……。

筆者 私が取材で見てきた高卒の「大卒いじめ」も、すさまじいものでした。ところで、創業経営者で成功するために学歴は必要でしょうか?

成功する人に多く見られる
「ハングリー・パワー」の源とは

栢野克己(かやの・かつみ)さん
1958年福岡市生まれ。1982年立命館大学経営学部卒。ヤマハ発動機、リクルート、IBMリース、ベンチャー企業、広告代理店などを経て独立。現在、インタークロス代表取締役。著書『小さな会社・儲けのルール―ランチェスター経営7つの成功戦略』(フォレスト出版)はロングセラーに。

栢野 自営業であれ会社員であれ、直接的には一切関係ないと思います。成功する人に多く見られるのは、「ハングリーパワー」でしょうね。これが最も大切です。MBAホルダーであるとか経営学の本を読み込んだとか、そんなものは独立・起業で成功していく上で大きなウェィトを占めません。

ゼロから会社を興し、本格的な大企業に成長させた経営者の中には、子どもの頃にいじめを受けたり、何らかの差別的な扱いを受けたりして、「見返してやる!」というスイッチが入ったと思える人がいます。

筆者 スイッチ?

栢野 このスイッチが入り、猛烈になると、誰もが勝てませんよ。大成功した経営者の中には立派な学歴の人もいるかもしれませんが、その部分だけを見るのはまさに会社員の発想。その経営者は、自らの学歴のことを何も感じていないと思います。たまたま、その大学・学部を卒業しただけのことでしょう。

そんなことより「見返してやる!」というスイッチが入ったか否かです。逆に言えば、このスイッチが入らないと、高学歴であろうともその意味での成功は難しい。スイッチが入る前に受けたいじめや差別などは、本人も多くは語らないみたいですが、壮絶なものがあったと聞きます。だからこそ、彼らはすさまじいパワーを持っているのだと思います。

筆者 たぶん、多くの会社員はその偉大な経営者の学歴を見ては、「俺と同じ大学出身」と喜んでいるのでしょう。だが実は、別世界の人なのでしょうね。

栢野 あのような経営者は、たまたまその大学を卒業しただけですよ。出版社などが毎年、「大学別、上場企業役員数ランキング」などを発表しますね。あれを見て、喜んでいる会社員と似たようなものです。

そんな会社員には、創業や起業なんて無理ですよ。大企業に勤務する典型的なB級社員でしかない。おそらく出世で伸び悩み、不満を持っているのでしょうね。

私も、かつてはその1人でした……。行き詰まったときに、「俺が卒業した立命館は中の上で出世ランキング○位。まだ、俺はいける!」とね。きっと、多くの会社員があれを見て、そんな思いに浸るのでしょうね。出版社は、それが狙いなのだろうけど。

 

栢野 あのランキングを見て喜ぶ人は、社内では「仕事ができない人」「実はダメな人」ということがバレているけど、社外ではバレていないと信じ込んでいるのでしょうね。今なお、「さすが!○○大卒!」と見てもらっている、と思いたいのでしょう。実際、そのように見る人がいることも否定しがたい事実です。

筆者 そのいずれの人も「学歴病」なのかもしれませんね。

栢野 それが、多くの大企業の会社員のホンネだと思います。偏差値が意識にこびりついている以上、仕方がない。変えようがないし、本人も変わろうなんて思っていませんよ。

私は、いくつかの大企業を渡り歩いてきました。上司や同僚には、慶應とか早稲田、関関同立や明治、立教、青山、学習院、中央大などを卒業した人がたくさんいました。大企業は、私立大ではこのあたりがボーダーラインではないでしょうか。

この人たちは、中年になると「大学別役員数ランキング」を見て自分を慰めたり、奮い立たせたリしているタイプが多かったように思います。

「これ以上、みじめになりたくない」
自分を受け入れられない大企業の会社員

筆者 「自分が優秀ではない」という現実をなぜ、受け入れないのでしょうかね……。そんなところに未練がましくいるのではなく、中堅・中小企業に移り、そこで活躍して、「見返してやる!」と思わないのでしょうか、彼らは……。

栢野 それは、自営業とか起業家の発想です。大企業に勤めるほとんどの人は、そんなことを考えていない、と思います。「中小企業で勝負してやる!」ではなく、「これ以上、みじめになりたくない」くらいに感じているでしょう。中小企業をバカにしている人もたくさんいるはず。ほとんどの人は、特に40歳以上は出世で行き詰まろうともバカにされようとも、大企業にしがみつきます。

筆者 私にはみじめにしか見えませんが……。

栢野 会社にしがみついて、残ろうとする判断は間違ってはいないと私は思います。大企業で、特に人事・広報など管理や事務系の人は退職しても、その後、行き場が少ないでしょうから……。そんな人が中小企業に転職しても、「使い物」にはなりません。

どうしても独立・起業をしたいならば、一旦中小企業やベンチャー企業に転職をしてみるべきです。そこで思い知るべきですよ。いかに自分が甘い世界にいたか、いかに会社のブランドで生きてきたか、と。私も大企業から中小企業に転職し、思い知りました。

中小企業に移ったとしても、社長の中には「大企業の高学歴社員=使えない」という偏見を持ち、逆差別する人が結構いますから、いじめを受けることもあるかもしれませんね。

筆者 元ヤンキーの上司にアゴで使われるかもしれない。

 

栢野 大企業とはいえ、業界・業種によっては大量に「使い捨て人材」として雇っている会社はあります。

私は中小やベンチャー企業のほうが、本物の力がつくと自らの経験論を基に思います。大企業に就職したならば、ある一定の年齢を超えたら、必死にしがみつくしかないですよ。一歩外へ出たときに通用する実力があるとは思えないから。

家族にも言わずに封印してきた経験
学歴に潜む「人間を変えてしまう何か

筆者 ところで、ご自身が学歴に関心を持つようになったのは「不思議な経験」をしたからのようですね。

栢野 私の父親は昭和ヒトケタ世代で、終戦直後に大学を受験しました。大学進学率は今よりも想像できないほどに低い。そんな時代に旧帝大の神戸大に進学し、卒業後地方銀行に入ったのです。30代で取締役になり、その意味ではエリートだったのでしょうね。

わが子の教育にも熱心でした。だけど、私は小中学生の頃、優秀ではなかったのです。父は心配したのかな……。不思議なことが私の目の前で起きたのです。

筆者 それはどんなことでしたか。

栢野 高校1年のとき、我が家は引っ越しをしたのですが、その前日、突然見知らぬ中年の男性が家に現れました。その場にあった段ボール箱の上に数学のプリントを乗せて、「この問題を解いてください。宿題のお手伝いをします」なんて言っていたことを記憶しています。変だなと思いつつ、その問題を解いたのです。男性からは、回答や答えの導き方まで丁寧に教わりました。

その直後、引っ越しに伴い、福岡県の県立高校の編入試験を受けたのです。なんと、数学の問題は、あの中年の男性が持ってきた問題と同じだったのです。お陰で、私は高得点で合格しました。入学後、さらに驚くべきことが起きます。数学の授業が始まり、教室に入ってきた教師が、あの中年の男だったのです。

筆者 引っ越しの前日に現れ、手ほどきをしたという男性ですね……。

栢野 その通りです。私は、親の力か何かが働いているのかもしれないと思いました。だけど、父にそのことを聞けない。この高校は県立だから、男性教師は公務員でしょう。裏で何かがあったならば、大きな問題になり得るわけですから。

父はその1年後に脳溢血となり、逝ってしまいました。44歳だったかな……。結局、真相はわかりません。私は家族にも言わずに、1人でこのことを封印してきました。この経験を1つのきっかけにして、学歴について考えることが増えたのです。

筆者 学歴には、人間を変えてしまう何かが潜んでいるのかもしれませんね。

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